2004年12月4日ver.2 2004年10月21日脱稿 |
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慶應義塾大学 商学部 教授 権丈 善一 |
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『年金改革と積極的社会保障政策』の中に次のようなことを書いていた。 |
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上記の問いかけには厚労省年金局はなにも応えてくれなかったが、幸いにも日本経済研究センターが応じてくれた。 主任研究員深尾光洋氏による10月15日朝刊の日経新聞「経済教室」では、次のように論じられている。 |
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ようするに、13.58%という厚生年金保険料率で、日本でもスウェーデンのようなみなし運用利回りの年金が実現可能であるというあの話は、表1に基づく限りウソの話だったようなのである。そうしたお騒がせなウソを、まことしやかに見せるために、1999年に厚生省が推計した公的年金バランスシートが幾度となく使われてきた。そのバランスシートには、将来期間に対応した給付債務(1,420兆円)に、将来期間に対応した保険料・国庫負担金(1,350兆円)が、ほぼ1対1で対応するような値が示されていたから、このバランスシートを見た多くの人は、日本でも即座にスウェーデン型の<支払った分が返ってくる>みなし運用利回りの年金が実現できると判断を誤った。しかしながら、積立金もない純粋な賦課方式の下では<年金制度の内部収益率は、保険料が賦課される賃金の上昇率と人口増加率の和に等しくなる>という関係が常に成立する[1]。この恒等的関係から推論すれば、仮に積立金が存在したとしても、日本のように人口減少が予測される局面では、賃金上昇率並みの内部収益率を保証するためには国庫負担を導入せざるを得ないであろうということは予測できたはずである。 「ほかにもっとすばらしい抜本改革案があるかのような幻想に基づいた」年金論議も、そろそろ一段落していいころだろうと思う。 「経済教室」の中で年金を論じた深尾氏が、「出生率の低下をなんとしても食い止める必要がある」と結ばざるを得なかったように、今必要な改革は、人口構造を変える力を持つだけの積極的社会保障政策を展開すること、換言すれば「就業と出産育児を両立できるように投資を行うという真の構造改革」であるように思える。年金への不信不満という今日の強力なエネルギーが、そうした社会保障政策展開の後押しをするエネルギーに転換されることを期待しているし、いずれそうなると考えていたりもする。その時、昨年来の日本の年金論議が、技術的にも政治的にも実現可能性のなさそうな話の参入によりまったくもって混乱してしまったことも、まんざら悪い過去ではなかったと思えるようになるであろう。 最後に余談をひとつ。 日経センター主任研究員深尾光洋氏は、慶應義塾大学商学部の教授であり、深尾先生の研究室は、わたくしの隣室である。 今度、商学会誌室でコーヒーでも飲みながら年金のお話でもいたしましょう。あまり面白い話ではないですけど(笑)。 |
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三田研究室にて | ||||||||||||||||||
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[1] 人口増加率n、賃金上昇率gの時、賦課方式における年金制度の内部収益率はr、すなわち「賦課方式年金の内部収益率は賃金上昇率gと人口増加率nの和(r=g+n)に等しくなる」という命題を得る。よって完全な賦課方式のもとでは、人口減少過程で、賃金上昇率を保証する<みなしみなし運用利回り>の年金制度は、保険料以外の財源を投入しつづけることなくして実現不可能となる。 ちなみに、人口減少過程では、保険料率が高くなればなるほど、みなし運用利回りを実行すれば給付額も高くなる。よって、投入するべき保険料以外の他の財源も増えることになる。この点、本文中の表1の説明は、若干誤解を被るおそれのあるものになっている。表1に関する詳細は、日本経済研究センター『年金改革と銀行・生保経営』〔主査 深尾光洋、2004年10月, pp.53-63〕を参照されたい。 |