勿凝学問とは?
年金改革と積極的社会保障政策――再分配政策の政治経済学U』の「はじめに」より
本書をまとめるにあたり、『勿凝学問』〔学問に凝る勿れ〕というコーナーを設け、そこには、最近書いた随筆やインタビュー記事をおいた。「学問に凝る勿れ」とは、1890年に慶應義塾に大学部が設置された開設式における福澤先生の演題である。慶應義塾大学を開校するという記念すべきまさにその日に、第一期の入学生を前にして次のように話す福澤先生の痛快さは堪らない。
「之(学問)を好むと同時に学問に重きを置かず、唯人生の一芸として視るのみ。学を学んで人事を知らざるは碁客、詩人の流に異ならず。技芸の人に相違なしと雖も人生の完全なるものに非ずとて、物に触れ事に当たりて常に極言せざるはなし。〔中略〕学問に重きを置くべからざるとは、之を無益なりと云うに非ず、否、人生の必要、大切至極の事なれど、之を唯一無二の人事と思い、他を顧みずして一に凝り固まる勿れの微意のみ」
『福澤諭吉著作集』第五巻所収
わたくしの雑文や雑談をひとつにくくる呼称を求めて案じているとき、ふと『勿凝学問』がひらめいた。それがこの企画の由来である。この「はじめに」につづく次のページは、『勿凝学問』という新企画に収めた「思想と酩酊体質」からはじまる。二年以上も前に書いたこの随筆には、いま読み返してみると社会保障研究というわたくしの仕事に対する基本的な姿勢が記されているように思える。
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